かつて「ストレス性胃炎」と呼ばれた原因不明の腹痛 新しい病名とは?
※写真はイメージです(写真/Getty Images)
(AERA dot.)
慢性的な腹痛があるのに、健康診断では問題がないと言われる。そんな原因不明の腹痛は、機能性ディスペプシアかもしれない。機能性ディスペプシアとは、近年新しく名前のついた病気で、かつては「ストレス性胃炎」や「慢性胃炎」などと診断されていた。聞きなれない病名だが、どのような原因や症状があるのだろうか。東海大学医学部消化器内科学領域主任教授の鈴木秀和医師に話を聞いた。
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2013年に正式な診断名として認められたばかりの新しい病気「機能性ディスペプシア」が注目を浴びている。
器質的な異常(目に見える病変)がないにもかかわらず、慢性的な腹痛などの症状だけはある——。一昔前、こうした原因不明の症状は、ストレス性胃炎などと診断されることが多かった。
しかし、こうした診断を受けた患者の中には、「自分は精神的に弱いのでは」と感じてしまう人がいたかもしれない。こうした状況を鑑み、近年、器質的疾患がなくても、症状を訴える患者に寄り添い積極的に治療していこうという流れが生まれてきた。
その中で、上記のような器質的原因がわからない消化器症状を総じて「機能性消化管障害(FGIDs:Functional Gastrointestinal Disorders)」と呼ぶことになった。具体的な疾患名は、症状が起きている消化管の部位ごとに定義されている。例えば、食道なら「機能性胸焼け」、腸なら「過敏性腸症候群」、そして胃または十二指腸であれば「機能性ディスペプシア」となる。
機能性ディスペプシアは、胃潰瘍(かいよう)や胃がんのように、目にみえる病変が原因で症状を生んでいるわけではない。そのため、症状も人によってさまざまだという。東海大学消化器内科の鈴木秀和医師は、機能性ディスペプシアの症状について次のように話す。
「機能性ディスペプシアには、代表的な四つの症状があります。みぞおちのあたりが焼けるように感じる心窩(しんか)部灼熱感、みぞおちが痛む心窩部痛、食後のもたれ感、すぐに満腹になってしまう早期飽満感です。ただ、人によって症状が出る時間帯はまったく異なっていて、症状が持続的か間欠的か、便通異常を伴うのかなど、さまざまです」
この4大症状は、多くの人が感じたことのあるようなものばかりだが、ほとんどは一時的な症状で、慢性化しないことが多いという。こうした症状が、間欠的でも長く続くようであれば、機能性ディスペプシアの疑いがある。
機能性ディスペプシアにかかる原因について語るのは、非常に難しい。なにしろ、簡単には原因がつかめない病気が機能性ディスペプシアなのであって、原因がはっきり特定できてしまえば、それは機能性ディスペプシアからは除外され、新たに単独の疾患となる可能性も高い。
とは言え、機能性ディスペプシアについての研究は日々進んでいて、いくつかの原因は判明しつつある。
「機能性ディスペプシアの3大原因と言われているのが、胃や十二指腸の運動障害、知覚過敏、社会心理的ストレスです。最近では、食事因子や腸内細菌叢(そう)の異常も関係しているのではないかと考えられています。また、内視鏡では捉えきれない微小炎症によるリーキーガットが原因になることもあります」
リーキーガットとは「腸の透過性亢進(こうしん)」のことで、腸のバリア機能が弱まり、内容物が体内に漏れてしまっている状態を指す。
「心臓や脳は外界と接することはありませんが、口から食道、胃、腸、肛門はすべてつながっていて、ある意味で外界と接していると言えます。そのため、消化管には多くの菌が存在している状態です。普段は、腸壁がバリアの役割をして、菌が体の内側に入り込まないようになっていますが、微小炎症によってリーキーガットを起こしてくると、細胞と細胞の隙間がゆるくなり、菌が入り込んでしまいます」
ほかにも、機能性ディスペプシアには自律神経が関係しているという説もある。自律神経が乱れないように、生活リズムを整え、睡眠をしっかりとり、適度に運動をすることも、予防や治療には重要だという。
このように、機能性ディスペプシアは、年々その正体が明らかになってきていて、疾患としての認知度も高まってきている。しかし中には、「おなかが痛いくらいでは病院に行けない」と思う人もまだまだ多いだろう。
鈴木医師は、機能性ディスペプシアを治療するメリットについて、次のように話す。
「機能性ディスペプシアは、放置したからといって、それで命に危険が及ぶといったことは、基本的にはありません。そこまで重篤な病気ではないので、我慢してしまう人もたくさんいますし、自然治癒される人もいます。でも、機能性ディスペプシアはQOL(生活の質)に直結する病気です。おなかが痛くて仕事や勉強に集中できず、気分が落ち込み、余計に症状が悪化するといった、負の連鎖に陥ることもあります。命に危険がなくても、人生をよりよく生きるために、病院に来て早く治すのが良いと思います」
治療は内服薬が主。胃酸を抑える薬や、胃の働きを促進する薬などを、医師が症状を診ながら処方する。
薬の効果で腹痛が緩和されたことがきっかけで、気持ちが前を向いて、一気に快方に向かう患者も少なくないのだという。ただでさえストレスフルなコロナ禍の今、無理をせず自分の身体を大切にできることも、重要な能力と言えるだろう。
(文・中川雄大)
https://news.goo.ne.jp/article/
dot/life/dot-2020102800001.html
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