シニアを使い捨て! 急増する“ブラック労災”と死亡災害
100歳人生時代、工場での作業や清掃、警備などあらゆる仕事でシニアは戦力になっている(※写真はイメージです。本文とは直接関係ありません) (c)朝日新聞社
(AERA dot.)
「まるでうば捨て山ですよ」
関東地方の60代後半のユウコさん(仮名)は、勤め先の対応に憤っている。ユウコさんは、ビルメンテナンス会社のパートとして清掃労働をしていた。昨年、仕事中に階段から転落。救急搬送されて病院で検査を受けた結果、頭部外傷、頸椎骨折、右大腿骨骨折、歯の抜去などの重傷だった。
業務上の事故なので、ユウコさんは当然、労災だと思った。だが、会社はユウコさんが労災の手続きをお願いしても3カ月間放置した。その間、社長は怒鳴るような口調で家族の電話に対応。事故で休業を余儀なくされたにもかかわらず、休んでいる間に会社の担当者から連絡があり、辞めてほしいといった趣旨の話をされた。
最終的には労働基準監督署が労災として認定してくれたものの、ユウコさんはこの一件でシニアは使い捨ての労働力とみなされていると痛切に感じたという。
超高齢化社会の今、ユウコさんのケースは決してひとごとではない。60歳を迎えたら悠々自適の定年生活は昔の話。年金だけでは暮らせないと、60歳を過ぎても働くのは当たり前の時代になった。
厚生労働省の「高年齢者の雇用状況」によると、昨年の60歳以上の常用労働者は362万人超。2009年から約1.7倍になっている。内閣府の18年度版高齢社会白書によると、17年の労働力人口総数に占める65歳以上の割合は12.2%で年々上昇している。
シニアの労働意欲は高く、同白書によると、現在仕事をしている高齢者の約4割が「働けるうちはいつまでも」働きたいと回答。「70歳くらいまでもしくはそれ以上」と合わせれば、約8割に上る。さらには、現役世代でも、定年に関係なく働き続けたい人は少なくない。年齢を問わず働き続けたいというミドル・シニアは57.2%もいることが、リクルートキャリアが昨秋に40歳以上を対象に行ったインターネット調査でわかった。
高齢者が働く背景について、労働者の労災支援をする総合サポートユニオンの池田一慶さんはこう話す。
「深刻な労働力不足のなかで、年金だけでは生きていけない高齢者も働く時代になってきました。高齢者の貧困率は高い。その高齢者の多くは非正規雇用となっています」
このように“定年のない時代”が到来するなか、問題となっているのが、高齢者の労災だ。労働基準監督署長にすぐに報告の提出が必要になる休業4日以上の労災の17年の発生件数は、30代、40代、50代と年代が上がるほど増え、60歳以上が最も多く3万件を超えた。死亡災害の件数も年代が上がるほど増え、60歳以上は328件と最多だった。さらに、死亡災害について1999年と2016年を比較すると、60歳以上が占める割合は、25%から32%へと高まっている。
シニアの労災の背景について、中央労働災害防止協会・教育推進部審議役の下村直樹さんはこう話す。
「労災の発生確率が高いのは若年層と高齢者で、特に60歳以上は高止まりしています。高齢者の事故は転倒や墜落が多くを占めています。同じ骨折でも高齢者ほど治るのが長引くなど、休業日数は高齢者ほど長くなります」
つまり、昔よりも若々しいシニアが増えたように見えても、働く上で加齢による体の衰えは侮れないのだ。筋力や視力、バランス感覚の低下といった身体面だけでなく、脳の情報処理能力も衰えてくる。例えば、ランプが点灯したらボタンを押すような単純作業ならば年齢による差はわずかだが、危険を察知して回避するといった複雑な情報処理に関しては反応時間が高齢者は著しく長くなるという。
前出の池田さんは話す。
「高齢者になると、視力や運動能力が大きく低下する人が多く、ちょっとした身のこなしが必要な現場でけがをしてしまい、重労働になると簡単にけがをしてしまいます。高齢者は心疾患や高血圧などの持病を持つ人もいて、長時間労働になると死につながりやすいのです」
実際には、シニアの働く現場ではどんな事故が多いのか。中央労働災害防止協会が、16年の労災について50歳未満と50歳以上に分けて、死傷病事故の種類別に千人あたりの発生率を調べた。50歳以上では転倒の数値が極めて高く、それに次いで墜落・転落も高い数値となっている。「老化は脚から」ともいうように、加齢に伴う脚筋力の低下が著しいことを物語っている。
これからの季節は、熱中症にも注意が必要。運動による発汗量は加齢によって低下するとされ、シニアは体熱を発散しにくいからだ。また、持病で服用している薬によっては、発汗抑制作用があったり、脱水を引き起こしやすい成分が含まれていたりする。
同協会の高橋まゆみ広報課長はこう話す。
「実際に働く高齢者で熱中症になる人は多くいます。年配の人は我慢強く、家に帰ってから亡くなることもあります」
シニアの労災の増加の背景には、身体機能の衰えだけでなく、シニアの働き方の変化もある。以前ならば、定年後に働くといっても、現役世代よりも心身の負担が軽い仕事が多かった。それが、今は気力も体力も必要なあらゆる職種でシニアが戦力として働くシーンは珍しくなくなった。
「社会福祉施設などの3次産業で高齢者の労災が増えている」(下村さん)
「最近の警備業は高齢化しています。清掃や食品加工では圧倒的に高齢女性が多くなっています」(高橋さん)
大阪過労死問題連絡会・事務局長の岩城穣弁護士は、高齢者の就労について指摘する。
「昔なら定年後の人が就くのは、ちょっとした監督などの楽な仕事だった。いまは人手不足もあり、若いときと同じように働かせられる。非常に過酷な労働ではないかという印象がある」
岩城弁護士は、若い人と同じ過重労働で倒れる高齢者が多いとも指摘し、「弱いものを持っている人が倒れやすい」と話している。(本誌・浅井秀樹)
※週刊朝日 2019年5月24日号より抜粋
https://news.goo.ne.jp/article/dot/
bizskills/dot-2019051500049.html
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