受刑者の刑務作業、期せずして認知症予防に適した環境に
「養護工場」で刑務作業をする受刑者(府中刑務所)
現在、日本では高齢化が猛烈なスピードで進んでいるが、それは塀の中も例外ではない。東京・府中刑務所では、受刑者に占める65歳以上の割合が、ここ10年でおよそ2倍に増えたという。こうなると刑務所でも受刑者の認知症問題を考えなくてはいけないが、皮肉な現実もあるようだ。
受刑者の義務として位置づけられているのが、「刑務作業」だ。月平均して約5000円の報奨金が出所時に支払われる“仕事”ともいえる。しかし、高齢化に伴う身体能力の低下といった理由から、受刑者によっては困難な作業もある。広島刑務所の刑務官が解説する。
「高齢の受刑者専用の作業を用意しているわけではありませんが、個々の受刑者の体力や健康状態を見て、どういった作業が可能か、あるいは必要か、ということを考えています。例えば、指先が不自由な受刑者は『封筒の糊付け』はできないが、『紙袋に持ち手の紐をつける』作業や、体力的な余裕があれば『力仕事』はできるかもしれない、といった具合に判断しています」
同所の工場内を歩いた。椅子での座位がとれない受刑者のための畳のスペースもある。そこでは、同所の最高齢・90歳の受刑者が、あぐらもかけないため膝を伸ばして“働いて”いる。その内容は「固まった綿を柔らかくほぐす」という作業。ほぐした綿も、何らかの製品の材料として使われるのだという。
「それでも、どうしても体力的に耐えられない受刑者には、作業時間を短縮することがある」(同前)
東京・府中刑務所の「養護工場」では、歩いて工場へ移動するのが困難な受刑者が、寝起きから“仕事”まで居室内で完結する造りになっている。刑務作業は受刑者の義務なので、何もしないわけにはいかない。それゆえ仕事内容が“カスタマイズ”されているわけだ。
介護施設専門誌『あいらいふ』編集長の佐藤恒伯氏は、「認知症対策において“仕事”があることは非常に重要です」と語る。
「長年勤め上げた会社を定年した後に、『何もしなくていい』状況が続くと、認知症のリスクは高くなってしまいます。また、老人ホームなどの施設では、仕事を強制することができません。そのため質の高いケアを提供する老人ホームでは、むしろ洗濯物や配膳を手伝ってもらうなど可能な役割をお願いしているところもある。仕事を通じて“社会とのつながり”の認識を持ってもらうことが、認知症予防にとって大切だからです」
どんなに体が動かなくなっても、本人がやれる範囲の仕事(作業)が必ずある刑務所内は、期せずして“予防に適した環境”になっているのだ。
■取材/末並俊司、高橋ユキ
※週刊ポスト2018年5月25日号
NEWSポストセブン
http://news.livedoor.com/article/detail/14722979/
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