
山中慎介(大徳義幸/Wikimedia Commons)
試合とは打って変わって膠着状態である。13回連続防衛の日本タイ記録が懸かったWBC世界バンタム級タイトルマッチで、王者の山中慎介(34)を破ったルイス・ネリ(22)=メキシコ=にドーピング疑惑が浮上。もどかしい展開に、山中を擁する帝拳ジムの会長が口火を切り、さらには本人も――。
***
8月15日の一戦は、山中が4回TKO負け。トレーナーの投じたタオルが早すぎたと物議を醸したのだが、23日にはWBCが薬物検査の結果を公表。7月27日に採取したネリの検体から、筋肉増強作用のあるジルパテロールの陽性反応が出たとのことだった。
「メキシコでは牛や豚を太らせるために用いる薬です。ネリ側も『肥育された牛肉を食べた』などと主張していますが、牛を1頭丸ごと食べなければ検出されないレベルの数値で、クロは明らかです」(スポーツ紙記者)
現在は試合後に採取した検体などを分析中で、結果をもとにWBCが判断を下す見通し。ボクシングジャーナリストで慶応大学教授の粂川麻里生氏は、
「結論は10月のWBC総会まで持ち越される可能性もありますが、最終的に陽性が認められれば無効試合となり、ベルトの移動も無しとなるでしょう」
「最後」と決めて…
敗戦翌日に山中は、防衛成功でも引退の可能性があったとしつつ、進退は留保。一方で“タイトルが戻っても拒否する”と明言したのは帝拳の本田明彦会長である。あらためて聞くと、
「陸上競技で金メダルが剥奪されて銀が繰り上がるのとはワケが違う。1対1で殴り合って、結果が出ているわけですから」
“負けは負け”だというのだ。
「本人は元々『王者のまま引退したい』と言っていて、やることは十分やった。それが今更、相手が失格でベルトが戻っても『はいそうですか』と受け入れるのは、日本人の倫理観からすればおかしいと思う。私も山中も、戦う価値のある強いネリを相手に『勝っても負けてもこれで最後』と決めて頑張ってきたのです」
タオル投入の判断にも、当初は怒り心頭だったが、
「トレーナーが山中の身体を考えた結果で、お互い最後と思って臨んだのだから受け入れようと。そう思い直している時に騒動が降りかかってきたから、周りも『なぜ引退させるんだ』となるわけです。山中の考えは確かめていませんが、もし続けたいと言っても“ベルトが戻ったから他の選手と防衛戦”という選択肢はない。そうなれば日本のボクシング界は終わりです」
というのも、
「ボクシングは続ければいいというものではなく、10回以上も防衛すればモチベーションの維持は難しい。お金も貯まって、彼には幸せな家庭もあります。だからこそ『最後は記録に並んで終わろう』となったのです。それをもう1回というのは、難しいですよ」
当の山中も、こう言うのだ。
「現役を続けるならネリとの再戦しかないのですが、引退するか迷っていたら薬物報道が出て、正直、気持ちが追い付いていけません。整理がつかないまま話が展開していって、ゆっくり考えたくてもできないのです」
悩める拳の向く先は……。
「週刊新潮」2017年9月7日号 掲載
http://news.livedoor.com/article/detail/13577822/
- 関連記事
-
テーマ : ボクシング
ジャンル : スポーツ